自動化できるかどうかは、仕事の難しさで決まらない

自動化する仕事を選ぶとき、たいていは簡単そうなものから手を付ける。ところが実際にやってみると、簡単なはずの仕事ほど途中で人が入り、複雑な仕事のほうが最後まで回ることがある。この記事を読むと、自動化しやすさを決めている4つの条件と、手元の仕事にそれを当てて仕分ける手順が分かる。


目次

章タイトル内容
第1章自動化しやすさは難易度で決まらない難しい仕事が回り、簡単な仕事が止まるのはなぜか
第2章条件① 入力が毎回そろっている材料を探す工程が残ると、生成が速くても全体が縮まない
第3章条件② 手順が言葉になっている頭の中でやっている工程は、渡しても同じ結果にならない
第4章条件③ 合格の条件が決まっている通す基準が無いまま出し直しを繰り返す状態の正体
第5章条件④ 例外の扱いが決めてある想定外が来たときの行き先を、先に決めておく
第6章4条件で自分の仕事を仕分ける手元の工程に条件を当て、次にやることを決める手順
第7章そろわない条件は、そろえてから渡す後から作れる条件と、作れない条件の見分け方
まとめ—4条件に共通していること

第1章 自動化しやすさは難易度で決まらない

1-1. 難しい仕事が自動化できることがある

大量の文章から必要な情報を抜き出して表にまとめる作業は、人がやると時間がかかる。

読む量が多く、判断も要る。難しい仕事に見える。

ところがこれは、自動化が回りやすい部類に入る。

読む対象が決まっていて、抜き出す項目が決まっていて、表の形が決まっているためである。

出てきたものが正しいかどうかも、元の文章と突き合わせれば判定できる。

人にとっての負荷の大きさと、自動化の通しやすさは別の話である。

1-2. 簡単な仕事が自動化できないことがある

一方で、「取引先へのメールの返信」は、人がやれば数分で終わる。

簡単な仕事に見える。

だがこれを自動化しようとすると、たいてい途中で止まる。

相手との過去のやり取り、今の交渉の状況、社内で決まっている条件、書いてよいことと書いてはいけないこと — これらが毎回違い、しかもどこかにまとまっていない。

書いた文が適切かどうかも、送る前に人が見ないと判断できない。

結果として、依頼文を書く時間と確認する時間のほうが、自分で書く時間より長くなる。

所要時間が短い仕事は、そのぶん自動化の効果も薄い。 短い仕事ほど、周辺の準備と確認が相対的に重くなる。

1-3. 分かれ目は、決まっているかどうか

2つの例を分けているのは、難易度ではない。

その仕事について、何がどこまで決まっているかである。

情報の抜き出しは、材料も、やることも、正解の形も決まっていた。

メールの返信は、そのどれもが毎回変わる。

自動化とは、決まっていることを繰り返し実行させる仕組みである。決まっていないものは、繰り返せない。

決まっている必要があるのは、次の4つになる。

#条件決まっているとはどういう状態か
1入力始めるのに要る材料が、決まった場所に決まった形である
2手順やることの順番が、言葉として書き出せる
3合格の条件出てきたものを通すか落とすかの基準が、先に決まっている
4例外の扱い想定外が来たときの行き先が、決まっている

決まっているかどうかの1本の軸上に2つの仕事を置き、左の仕事だけが毎回人の判断を必要とすることを示す図

難易度の軸で仕事を並べても、自動化できる順番にはならない。

並べ直す軸は、4つの条件がそろっているかどうかである。

第2章から第5章で、条件を1つずつ見ていく。


第2章 条件① 入力が毎回そろっている

2-1. 入力がそろわないと、頼む前で止まる

自動化の話をするとき、注目されるのは生成の工程である。

だが仕事が始まるのは、その手前になる。

AIに何かを頼むには、材料が要る。元になる資料、前回の内容、今回の条件。

この材料が毎回違う場所にあり、違う形をしていると、頼む前の準備で時間が使われる。

生成そのものが数秒で終わっても、材料を集めるのに15分かかっていれば、その仕事は15分と数秒の仕事である。

生成の速さは、全体のごく一部にしか効いていない。

自動化が「思ったほど速くならない」と感じられる原因の多くは、ここにある。

入力がそろうとは、始めるときに探す先が決まっていることを指す。

2-2. 依頼文に毎回同じ説明を書いている

入力がそろっていない仕事には、分かりやすい目印がある。

依頼するたびに、同じ説明を書き直している状態である。

前提の説明、自分の状況、守ってほしい条件。これらを毎回一から書いているなら、その情報はどこにも固定されていない。

同じ資料を毎回貼り直しているのも、同じことになる。

もう1つの目印は、依頼文を書き始めてから材料を取りに行く状態である。

書きながら「そういえばあの資料が要る」と気づき、探しに行く。この往復が入るなら、材料の置き場が決まっていない。

目印起きていること
毎回同じ前提を書き直している前提がどこにも固定されていない
同じ資料を毎回貼り直している材料の所在が依頼のたびに変わる
書きながら材料を探しに行く始める前に必要なものが特定できていない

2-3. 渡す材料を固定の場所に置く

直し方は、生成の側ではなく材料の側にある。

渡すものを決め、置き場を1つにする。

毎回書いている前提は、ファイルに書き出して置いておく。毎回貼っている資料は、決まったフォルダに決まった名前で置く。

これをやると、依頼文から前提の説明が消える。残るのは、今回だけの指示になる。

あわせて材料の形をそろえておく。

同じ内容でも、あるときは表、あるときは箇条書き、あるときは文章では、受け取る側が毎回違う読み方をすることになる。形が決まっていれば、出てくるものも安定する。

入力を固定することは、依頼の前段を自動化することにあたる。 ここを飛ばして生成だけを速くしても、全体は縮まない。


第3章 条件② 手順が言葉になっている

3-1. 書き出せない手順は、渡しても再現しない

長くやっている仕事ほど、手順は頭の中にある。

やっている本人は迷わず進められるが、順番を書き出そうとすると出てこない。

この状態の仕事は、渡しても同じ結果にならない。

書き出せていない部分には、たいていその場で下している判断が入っているためである。

資料を見て「今回はこの切り口でいこう」と決めている。過去のものと見比べて「これは前と同じ形でいい」と決めている。

こうした判断は作業の中に溶けていて、本人も判断として認識していないことが多い。

書き出さないまま渡すと、その判断はAIが勝手に埋めることになる。埋め方は毎回変わる。

手順が言葉になっているとは、他人が同じ順番でやって同じところに着けることを指す。

3-2. 手順の説明が「いい感じに」で終わる

手順が言葉になっていない目印は、説明の中に現れる。

やり方を人に説明したとき、途中で「あとはいい感じに整える」で終わる箇所があれば、そこが書き出せていない工程になる。

「適宜」「様子を見て」「うまく」も同じである。

これらの言葉が出た箇所には、書き出されていない判断がある。

もう1つの目印は、同じ依頼から出てくるものが毎回違うことである。

指示は同じなのに結果が安定しないなら、指示に書かれていない部分をAIが埋めていることになる。

3-3. 分解の粒度は、判断が見える単位まで

手順を書き出すとき、どこまで細かく分けるかが問題になる。

基準は、判断が工程として見える単位までである。

「記事を書く」では、その中に何個の判断があるか分からない。

「切り口を決める → 構成を作る → 本文を書く → 見直す」まで分ければ、切り口を決める工程が判断であることが見える。

ここまで分けると、渡せる工程と自分が持つ工程が分かれる。切り口を決めるのは自分がやり、構成と本文はAIに渡す、という切り方ができる。

分解の目的は、渡す単位を小さくすることではない。判断がどこにあるかを見えるようにすることである。

判断が見えれば、それを条件として書き出せる。書き出せば、その工程も渡せるようになることがある。


第4章 条件③ 合格の条件が決まっている

4-1. 合格の条件が無いと、確認が終わらない

出てきたものを見て「なんか違う」と感じ、やり直しを頼む。

出てきたものを見て、また「違う」と感じる。

この往復が続くとき、足りていないのは指示の精度ではない。通す基準が決まっていないことである。

基準が無いと、判定は毎回その場の感覚になる。感覚は日によって変わるため、同じものを見ても通したり落としたりする。

そして往復が何回で終わるかも読めない。

自動化として問題なのは、この確認工程に人の時間が無制限に吸われることである。

生成が数秒で終わっても、確認と出し直しに30分かかるなら、その工程は自動化されていない。人が全部見ている状態と変わらない。

4-2. 出し直しの回数が毎回変わる

合格の条件が決まっていない目印は、回数に出る。

同じ種類の仕事なのに、1回で終わるときと5回かかるときがあるなら、判定が安定していない。

安定していないのは出力ではなく、判定する側である。

もう1つの目印は、やり直しの指示が抽象的になることである。

「もう少し具体的に」「トーンを変えて」「なんか硬い」。

これらは、何を直せば通るのかを示していない。通る条件が自分の中で言葉になっていないため、直す指示も言葉にならない。

目印起きていること
出し直しの回数が毎回変わる判定の基準がその場で変わっている
やり直しの指示が抽象的になる通る条件が言葉になっていない
確認に生成より時間がかかる判定が人の全読みに依存している

4-3. 落とす条件のほうが書きやすい

合格の条件を書こうとすると、たいてい手が止まる。

「良い記事とは何か」を定義しようとするためである。

先に書くのは、落とす条件のほうでよい。

通す条件は言葉にしにくいが、落とす条件は具体的に出てくる。

  • 指定した文字数の範囲から外れている
  • 決めた用語ではない言い方を使っている
  • 事実の裏付けが無い断定が入っている
  • 前回と同じ切り口になっている

これらは見れば分かる。分かるということは、判定を渡せる形になっているということである。

落とす条件が並ぶと、確認の工程が変わる。全部を読んで感覚で判定するのではなく、決めた項目だけを見て、どれにも当たらなければ通すという形になる。

この形になって初めて、確認の時間が予測できるようになる。 予測できる確認は、工程として組み込める。


第5章 条件④ 例外の扱いが決めてある

5-1. 例外が来たときの行き先を決める

前の3つがそろっていても、想定外は来る。

材料が足りない。前提と違う条件が入っている。過去に無かった形のものが来た。

このとき何が起きるかを決めていないと、自動化は止まる。

止まるだけならまだいい。止まらずに、そのまま処理されるほうが問題になる。

材料が足りないまま生成されると、AIは足りない部分を埋めて出してくる。出てきたものは形が整っているため、確認する側も気づきにくい。

3章「手順が言葉になっている」で見た、書き出されていない判断をAIが埋める話と同じ構造である。埋まる場所が、手順から材料へ移っただけになる。

例外の扱いを決めるとは、想定外が来たときの行き先を1つに決めることを指す。

5-2. 例外が来ると人が全部やり直す

例外の扱いが決まっていない目印は、例外が来たときに工程ごと放棄されることである。

いつもと違うものが来たので、今回は自分で全部やる。

これが月に1回なら問題ない。だが週に2回起きているなら、その仕事は半分しか自動化されていない。

もう1つの目印は、例外だったことに後から気づくことである。

出てきたものを使った後で、材料が足りていなかったと分かる。この場合、例外を検出する仕組みがそもそも無い。

例外の頻度は、記録しないと分からない。感覚では「たまに」と思っている頻度が、実際には3回に1回だったということが起きる。

5-3. 止める・回す・無視するの3つから選ぶ

例外が来たときの行き先は、3つしかない。

行き先どうするか向く場面
止める処理を中断し、何も出さない間違ったものが出ると影響が大きい
人へ回す例外だけを人の判断に上げる判断すれば進められる
無視するその1件を飛ばして先へ進む1件抜けても全体に影響しない

決めるのは、どれを選ぶかと、何をもって例外と判定するかの2つになる。

判定の条件は、4章「落とす条件のほうが書きやすい」と同じ考え方で書ける。材料が決まった数そろっていない、決めた形式ではない、指定した数値より大きい値が入っている。

見れば分かる形にしておけば、判定そのものも渡せる。

例外を全部なくそうとしない。 例外が来ないように設計するのではなく、来たときの行き先を決めておくほうが早い。


第6章 4条件で自分の仕事を仕分ける

6-1. 4条件を順に当てる

手元の仕事に、第2章から第5章の条件を順に当てる。

入力・手順・合格の条件・例外の扱いの4条件を順に判定し、欠けた条件ごとに次にやることが変わることを示す図

順番には意味がある。

入力から順に当てる。 前の条件が欠けていると、後ろの条件を検討しても意味がないためである。

材料がそろっていない状態で合格の条件を決めても、そもそも出てくるものが毎回違う。手順が書き出せていない状態で例外を定義しても、何が例外なのかが決まらない。

当てるときは、工程全体ではなく分解した工程1つずつに当てる(→3章「分解の粒度は、判断が見える単位まで」)。

「記事を書く」に4条件を当てると、たいてい全部が欠けている。「構成から本文を書く」に当てると、条件がそろっていることがある。

6-2. 欠けた条件の数で、次にやることが変わる

判定の結果は、3つに分かれる。

結果状態次にやること
4つそろっているそのまま渡せる自動化の工程として組む
1〜2個欠けているそろえれば渡せる欠けた条件を作る(→第7章「そろわない条件は、そろえてから渡す」)
3個以上欠けている今は渡せない分解し直すか、人が持つ

3個以上欠けているときに、条件を全部作りにいかない。

条件が作れないのではなく、分解の単位が大きすぎる可能性が高い。もう一段細かく分けると、その中に条件のそろった工程が見つかる。

分け直しても条件がそろわないなら、その工程は人が持つ(→7章「そろえられない条件は、人が持つ」)。

6-3. 条件がそろっている工程から始める

複数の工程で判定を終えたら、着手する順番を決める。

条件のそろっている工程から始める。

自動化の効果が大きそうな工程からではない。効果が大きい工程は、たいてい条件が欠けている。そこから手を付けると、条件を作る作業だけで止まる。

条件がそろっている工程を先に実行すると、2つのものが手に入る。

  • その工程が実際に最後まで進むかどうかの結果。条件がそろっていても人が途中で入ることがあり、それは実際にやらないと分からない
  • 次の工程で条件を作るときの見本。一度動かした工程の入力の置き方・合格の条件の書き方が、そのまま次で使える

条件が欠けている工程は、その後で手を付ける。

順番を「効果の大きさ」ではなく「条件のそろい方」で決める。 これが4条件を使う実際の使い道になる。


第7章 そろわない条件は、そろえてから渡す

7-1. 後からそろえられる条件

「自動化しにくい仕事」は、その仕事が持つ性質ではない。

今の時点で条件がそろっていない状態を指しているだけである。

条件の多くは、後から作れる。

欠けているものそろえる作業
入力渡す材料を決め、置き場と形式を固定する(→2章「渡す材料を固定の場所に置く」)
手順判断が見える単位まで分解して書き出す(→3章「分解の粒度は、判断が見える単位まで」)
合格の条件落とす条件を並べる(→4章「落とす条件のほうが書きやすい」)
例外の扱い判定の条件と行き先を決める(→5章「止める・回す・無視するの3つから選ぶ」)

どれも、AIの性能とは関係がない作業である。

自分の仕事について決めていなかったことを、決めるだけになる。

この作業は1回やれば残る。 一度書き出した手順、一度決めた合格の条件は、次の依頼でもそのまま使える。

自動化の準備として見ると重い作業に見えるが、同じ仕事を繰り返す回数で割ると軽くなる。月に1回の仕事なら見合わないこともあるが、週に3回やる仕事なら数週間で回収する。

7-2. そろえられない条件は、人が持つ

一方で、作れない条件がある。

何のためにやるかを決めることと、外へ出した結果に責任を持つことである。

目的は、条件として書き出せない。書き出せるのは、目的が決まった後の判断基準までになる。

「読者に何を持ち帰らせたいか」を決めるのは人で、決まった後の「その狙いに合っているか」の判定は渡せる。

責任も同じである。出てきたものを外部へ出すと決めた時点で、その結果を引き受けるのは出した側になる。この工程は分解しても消えない。

そろえられるそろえられない
材料の置き場と形式何のためにやるか
手順の分解と記述外へ出す判断
合格・不合格の基準結果に対する責任
例外の判定と行き先基準そのものを決めること

この2つが残っている工程は、条件がそろわないのではなく、そろえてはいけない工程になる。

自動化の設計とは、この2つを自分が持ったまま、それ以外の条件をそろえていく作業である。


まとめ

自動化しやすい仕事と、しにくい仕事を分けているのは、仕事の難しさではない。

入力・手順・合格の条件・例外の扱いの4つが決まっているかどうかである。

4つに共通しているのは、どれもAIの性能とは関係のない場所にあることである。

材料がどこにあるか、やることの順番は何か、何を通して何を落とすか、想定外が来たらどうするか — これらはすべて、自分の仕事について自分が決めることになる。

決まっていないものを渡すと、AIがその場で埋める。埋め方は毎回変わるため、結果も毎回変わる。

「AIに向かない仕事」に見えていたものの多くは、まだ決めていない仕事である。

自動化の作業は、AIに渡す作業ではない。渡せる形になるまで、自分の仕事について決める作業である。