指示の出し方は部下と同じでよいが、AIは前提も責任も持たない

「AIは優秀な新入社員だと思って使うといい」とよく言われる。そのつもりで指示を書くと返ってくるものは良くなるのに、何度頼んでも前回教えたことが反映されず、同じ説明を毎回書くことになる。この記事を読むと、部下への任せ方のうちAIにそのまま使える3つと、使えない3つが分かり、その境目がどこにあるかを掴める。


目次

章タイトル内容
第1章「部下に任せる」は、何を教えてくれる比喩か指示の書き方を直しても消えない4つの困りごとと、この比喩がそこに効く理由
第2章通じる型① 仕事全体ではなく、1工程を指定する任せる範囲の切り方と、切れているかの見分け方
第3章通じる型② 合格条件を、指示と一緒に書く完了の基準を先に書くと何が変わるか。書けないときの扱い
第4章通じる型③ 外部へ出る直前に、確認点を1つ置く確認の重さをどう決め、どこに置くか
第5章通じない前提① AIは前回の説明を覚えていない覚えないことを前提にした前提の渡し方
第6章通じない前提② AIは結果の責任を引き受けない責任が動かないことが、確認の設計に何を要求するか
第7章通じない前提③ AIは前提が間違っていても止まらない聞き返しが来ない相手に、どこで止まらせるか
第8章部下への任せ方のうち、AIに使えるのはどこまでか6つを1本の線で分け、指示の作り方に落とす
まとめ—3つの型と3つの前提に共通していること

第1章 「部下に任せる」は、何を教えてくれる比喩か

1-1. 指示の書き方を工夫しても、消えない困りごとがある

AIがうまく使えないとき、たいていは指示の書き方を直す。

役割を与える、具体的に書く、例を添える、出力の形式を指定する。こうした工夫で、返ってくるものは実際に良くなる。

それでも残る困りごとがある。

残る困りごと何が起きているか
出てきたものを、使えるかどうか判断できない何が出てきたら合格なのかを、自分でも決めていない
修正を何度頼んでも終わらない基準が無いまま出し直すので、毎回別の箇所が気になる
前に伝えたことが、次の依頼で反映されていない説明した前提が、相手の中に残っていない
出てきたものをそのまま使ってよいか迷うどこで自分が見るかを、決めていない

この4つは、指示を上手に書けば消えるものではない。 どれも指示を書く前に自分が何を決めたか、書いた後に自分が何をするかの話になる。

1-2. 「部下に任せる」と言い換えると、この4つが出てくる

「AIは部下のようなもの」という言い方は、この4つを引き出すために効く。

人に仕事を頼むとき、多くの人は指示を出す前に次を決めている。

決めていること具体的に何を決めているか
任せる範囲どこからどこまでを頼み、どこから先は自分がやるか
完了の条件何が出てきたら「終わった」と扱うか
確認のタイミング途中で見せてもらうか、出来上がってから見るか
外へ出す判断その成果物を、そのまま客先や社外へ出してよいか

新人に「この資料を作っておいて」とだけ言って、出てきたものをそのまま客先へ持って行く人はいない。どこかで自分が見る。見る場所を、頼む時点で決めている。

この4つは、AIに仕事を任せるときにもそのまま必要になる。 そしてAIを道具として見ているかぎり、どれも出てこない。ドライバーを使うとき「このネジを回してよいのか」を考えないのと同じで、道具に対しては、使い方しか問いにならない。

「部下に任せる」と言い換えたとたん、使い方以外の問いが出てくる。この比喩が広く使われているのは、そのためになる。

問題は、この比喩がそこで止まらないことにある。部下という言葉には、任せた後についての期待も一緒に付いてくる。1-1で挙げた「前に伝えたことが反映されていない」は、その期待が外れて起きている。

指示を出すところまでは部下と同じでよく、出した後は同じにならない。 ここから先の6つの章で、その両側を順に見る。


第2章 通じる型① 仕事全体ではなく、1工程を指定する

2-1. 「記事を書いて」は、工程ではなく仕事全体

新人に「記事を書いておいて」とだけ頼む人は少ない。

何について書くのか、誰に向けたものか、どのくらいの長さか、どんな資料を見ればいいのか。これらを伝えないと、返ってくるものが当たるかどうかが運になることを知っているためである。

AIに対しては、これを平気でやる。

このテーマで記事を書いて

返ってきたものは、たいてい形は整っている。見出しがあり、段落が分かれ、結論がある。それでも使えない。想定していた読者と違う、扱ってほしかった論点が入っていない、前提としていた条件が反映されていない。

原因は指示の書き方ではなく、渡した単位が仕事全体だったことにある。

「記事を書く」は、実際には複数の工程でできている。

工程中身
何を書くか決める読者・扱う問い・記事が出す答えを決める
材料を集める事実・実例・参照する資料を揃える
構成を組む章立てと、各章で言うことを決める
本文を書く構成に沿って文章にする
読み返して直す通じない箇所・重複・事実誤りを直す
公開の形に整える見出し記法・リンク・画像を入れる

「記事を書いて」と頼んだとき、この6つ全部が渡っている。そして最初の「何を書くか決める」には、外からは見えない前提が大量に入っている。AIはそれを持っていないので、埋めるしかない。埋めた結果が、想定と違うものになる。

新人にやらせるときも同じことが起きる。 違うのは、新人なら「読者は誰ですか」と聞き返してくることである。AIは聞き返さずに埋める(第7章「AIは前提が間違っていても止まらない」で扱う)。

2-2. 1工程かどうかは、入力がその場で揃うかで見分ける

では、どこで切ればよいのか。

判断の目印は1つでよい。その工程を始めるのに要る入力が、指示を書く時点で全部手元にあるかを見る。

入力が揃っている入力が揃っていない
例「この構成案に沿って第3章の本文を書く」「この記事を書く」
手元にあるもの構成案・読者設定・扱う論点テーマだけ
AIがやること決まっている材料を文章にする足りない前提を推測で埋める
返ってくるもののばらつき小さい大きい

揃っていない状態で渡すと、AIは足りない部分を自分で決める。その決定は指示に書かれていないので、返ってきたものを見るまで何を決めたか分からない。修正の往復が増えるのは、この見えない決定を1つずつ潰しているためである。

揃っていないなら、揃える工程を先に済ませる。 その工程自体をAIに頼んでもよい。「読者は誰にすべきか、3案出して」と頼み、自分が1つ選ぶ。選んだものを入力として、次の工程を頼む。

工程を分けると、指示を書く回数は増える。しかし1回あたりの修正の往復が減り、どこで想定とずれたかがその場で分かる。

部下への任せ方をそのまま使えるのは、ここまでになる。 「何をどこまで頼むか決めてから頼む」という型は、相手が人でもAIでも、返ってくるもののばらつきを同じように小さくする。


第3章 通じる型② 合格条件を、指示と一緒に書く

3-1. 合格条件を書けない仕事は、まだ指示できない

新人に仕事を頼むとき、「いい感じにやっといて」で通ることはある。相手が過去の成果物を見ていて、この職場で何が「いい感じ」かを知っている場合である。

AIはそれを知らない。 だから「いい感じ」の中身を、指示に書くことになる。

これは指示を丁寧に書くという話ではない。頼む側が、何をもって完了とするかを決めていなければ書けないという話になる。

書けないときは、たいてい次のどれかが起きている。

状態何が決まっていないか
「読みやすくして」としか書けない誰にとって読みやすいのか、何が読みにくいと判断しているか
「もっと具体的に」としか書けないどの部分が抽象的だと思っているか
出てきたものを見ないと判断できない判断の基準を持たず、その場の印象で決めている

3つ目が一番多い。そして3つ目のとき、修正の往復は終わらない。基準が無いまま出し直しを頼むので、次に出てきたものも基準に照らせず、また別の箇所が気になる。

合格条件が書けないなら、その仕事はまだAIに渡す段階ではない。 自分で1回やってみて、何をもって完了としたかを言葉にするほうが早い。

3-2. 合格条件より、不合格の条件のほうが書きやすい

とはいえ、「良い状態」を言葉にするのは難しい。

そこで先に書くのは、不合格の条件にする。

合格条件として書こうとすると不合格の条件なら書ける
読みやすい文章一文が3行を超えない。同じ語尾が3回続かない
具体的な説明「〜など」で例を省略しない
適切な長さ1章が原稿用紙2枚を超えたら分ける
事実に沿った内容資料に書かれていないことを書かない

不合格の条件のほうが書きやすいのは、過去に困った経験がそのまま条件になるためである。「前に頼んだとき、例が全部『〜など』で省略されていて使えなかった」という記憶は、そのまま1行の条件になる。

これは部下への指示でも同じである。 「こういうのは困る」と伝えるほうが、「こうしてほしい」より具体的になりやすい。違うのは、部下は一度言えば次から覚えているが、AIは覚えていないことになる(第5章「AIは前回の説明を覚えていない」)。

不合格の条件は、指示のたびに書き直さない。溜まったらファイルに書き出し、毎回それを読ませる。


第4章 通じる型③ 外部へ出る直前に、確認点を1つ置く

4-1. 確認の重さは、やり直せるかで決まる

新人の成果物を、毎回すべて詳しく見る人はいない。時間が足りないためである。

代わりにやっているのは、見る場所を選ぶことになる。社内の下書きは目を通す程度で済ませ、客先へ出す資料は行ごとに確認する。

この使い分けの基準は、仕事の難しさではない。間違っていたときにやり直せるかになる。

やり直せるか例確認の重さ
すぐ戻せる自分用のメモ、下書きファイル、ローカルの変更目を通す程度でよい
手間はかかるが戻せる公開済みの記事、社内へ配った資料出す前に読む
戻せない送信したメール、外部へ渡したデータ、削除した記録1行ずつ確認する

難しい仕事ほど確認が重い、ではない。 難しい仕事でも、手元で完結してやり直せるなら軽くてよい。逆に、単純な仕事でも外部へ出るなら重くなる。宛先を1つ間違えたメールは、内容が簡単でも取り消せない。

AIに任せるときも、この基準をそのまま使う。第2章「仕事全体ではなく、1工程を指定する」で工程に分けたら、各工程がこの3つのどれに当たるかを見る。

4-2. 確認点は、外部へ出る直前の1箇所に置く

工程ごとに毎回確認すると、確認のほうが元の作業より時間を食う。それでは任せた意味がなくなる。

置く場所は絞る。外部へ出る直前の1箇所に置く。

材料を集める → 下書きを作る → 整える → [確認] → 公開する

ここでいう「外部」は、社外だけではない。

外部にあたるもの理由
公開サイト一度出ると、見た人の記憶からは消せない
送信するメール・メッセージ取り消せない
他人と共有するファイル相手が既に使っているかもしれない
消えると困るデータへの変更元に戻せない

この線の手前までは、間違っていても直せる。だから軽く済ませてよい。

線をまたぐ前に、必ず人が見る。 ここを飛ばすと、後から取り返しがつかなくなる。

部下と同じでよいのは、ここまでになる。 どこまでを頼むかを工程で切り、完了の条件を先に決め、外部へ出る前に確認点を置く。この3つは相手が人でもAIでも同じように働く。

次の3章では、部下への期待をそのまま持ち込むと外れる3つを見る。


第5章 通じない前提① AIは前回の説明を覚えていない

5-1. 部下は前回の説明を覚えているが、AIは覚えていない

新人に仕事を頼むと、説明する量は回を追うごとに減っていく。

1回目は、この資料が何のためのものか、誰が読むのか、どの体裁に揃えるのかを全部話す。2回目は「前と同じ体裁で」で済む。3回目には「あれ、お願い」で通るようになる。

説明した前提が、相手の中に積み上がっているためである。 これが人に仕事を任せることの、実務上の最大の利点になる。教える手間は最初に払い、その後は回収し続ける。

AIには、この積み上がりが無い。

会話を新しく始めれば、前回話したことは何も残っていない。同じ会話を続けていても、やり取りが長くなれば最初のほうの前提は薄れていく。

その結果、何が起きるか。

起きること中身
毎回同じ説明を書く前提・体裁・禁止事項を、依頼のたびに書き直す
書き漏らす何度も書いているうちに、今回だけ抜ける項目が出る
抜けた箇所が毎回違う出てくるものの品質が、依頼ごとにばらつく

「教えれば覚える」という期待が、この比喩に付いてくる。 期待したまま使うと、教えたつもりの前提が反映されていないことに毎回つまずく。

5-2. 前提はAIに覚えさせず、ファイルに書いて毎回読ませる

対処は、覚えさせようとしないことになる。

前提を自分でファイルに書き出し、依頼のたびにAIへ読ませる。 覚えないことを前提にした運びに変える。

置き方は、依頼のたびに書き直さないことだけを守れば形は問わない。

置き方中身
前提をファイルにまとめる読者・目的・体裁・禁止事項を1つのファイルに書き、依頼のたびに読ませる
不合格の条件を溜める第3章「合格条件を、指示と一緒に書く」で書いた条件を、その場限りにせず追記していく
指示の型を残すよく使う依頼を、埋める箇所だけ空けた形で保存する

これは、新人に教える代わりに手順書を書いているのに近い。違うのは、手順書は新人が慣れれば見なくなるが、AIは毎回読ませ続けることになる。

この差は、AI側の欠点として見なくてよい。 前提が外に出ていると、人が入れ替わっても同じものが出る。頭の中にしか無い前提は、本人が説明できるうちしか使えない。覚えないことへの対処として書いたものが、結果として仕事の再現性を上げる。


第6章 通じない前提② AIは結果の責任を引き受けない

6-1. 責任は、引き受けられる者しか持てない

部下に仕事を任せると、責任の一部が相手へ移る。

移る、という言い方には実体がある。任された側は、その結果を自分のこととして扱う。間違いが見つかれば説明を求められ、次から直す。評価にも反映される。だから任された側は、任された範囲の中で自分なりに考える。

AIには、この移動が起きない。

AIは間違いを指摘されても困らない。次から直すという継続もない。評価が下がることもない。結果を引き受ける主体がそこに無い。

責任が移らないなら、それはどこに残るか。その出力を採用して外へ出した人に残る。

場面責任を持つのは
AIが書いた記事を公開した公開した人
AIが作った資料を客先へ出した出した人と、その所属
AIが書いたコードを本番へ入れた入れた人

これは道徳の話ではなく、実際にそうなるという話になる。問題が起きたとき、説明を求められるのは出した側になる。

6-2. 「AIが間違えた」は、説明として通らない

AIの出力に誤りがあり、それが外部へ出たとする。

このとき「AIが間違えました」は説明にならない。相手が知りたいのは、なぜそれが外へ出たかであって、どこで作られたかではない。

AIを使ったこと自体は問題にならない。 問題になるのは、確認せずに出したことになる。第4章「外部へ出る直前に、確認点を1つ置く」で確認点を置いたのは、このためである。

責任が移らないという性質は、確認の設計に1つ要求を出す。

確認は、省略できる工程として扱わない。 部下に任せるときは、相手が慣れてくれば確認を減らせる。相手が責任を引き受け、間違いから学び、同じ失敗を繰り返さなくなるためである。

AIでは、この減らし方ができない。回数を重ねても、責任は移らないままになる。 出力の質が安定してきても、外部へ出る手前の確認だけは残す。

減らせるのは、確認の手間のほうになる。何を見るかを決めておけば、確認は速くなる。第3章「合格条件を、指示と一緒に書く」で書いた不合格の条件は、そのまま確認の項目として使える。見る場所を減らすのではなく、見方を決めることで速くする。


第7章 通じない前提③ AIは前提が間違っていても止まらない

7-1. AIは間違った前提のまま、最後まで作り切る

新人に仕事を頼んだとき、前提が間違っていると相手は止まる。

「この資料、去年の数字で作るんですか」「この宛先で合っていますか」

こうした聞き返しは、任せた側の間違いを見つける仕組みとして働いている。頼む側は完璧ではないので、この差し戻しがあることを前提に指示を出している。

AIは、ここで止まらない。

前提が間違っていても、指示された内容を最後まで作る。しかも形は整っている。去年の数字で作れと言われれば去年の数字で作り、存在しない宛先を指定されればその宛先で書く。

確認の質問が来ないことは、指示が正しかったことを意味しない。

ここが比喩の外れ方として一番わかりにくい。人に頼んで何も言われずに出てきたものは、「特に問題がなかった」という情報を含んでいる。AIから同じように出てきたものは、その情報を含まない。同じ「黙って出てきた」でも、意味が違う。

7-2. 止まらない相手には、人が止める場所を先に決める

聞き返しが来ないなら、止まる場所を自分で作ることになる。

やることは3つになる。

1つ目は、前提を指示に書き出すこと。 頭の中にある前提は、間違っていても気づけない。書き出すと、書いた時点で自分で気づくことがある。「今年度の数字を使う」と書こうとして、手元にあるのが去年のものだと気づく。

2つ目は、AIに前提を言わせること。 作り始める前に、何を前提として受け取ったかを出させる。

作り始める前に、この依頼で前提としたことを箇条書きで出してください。

出てきた前提を読めば、埋められた箇所が見える。第2章「仕事全体ではなく、1工程を指定する」で見た「見えない決定」が、ここで見えるようになる。

3つ目は、外部へ出る手前に確認点を置くこと。 第4章「外部へ出る直前に、確認点を1つ置く」で置いたものが、そのまま最後の受け止めになる。前提の間違いが1つ目と2つ目をすり抜けても、外へ出る前に人が見る。

この3つは、どれも指示を出す前と後に人がやることになる。 AIの側を賢くする方法ではない。止まらないという性質は変えられないので、止める場所を外に作る。


第8章 部下への任せ方のうち、AIに使えるのはどこまでか

8-1. 部下と同じでよいのは、指示を書くところまで

ここまで6つを見てきた。並べると、境界が1本の線で引ける。

指示を書くまでの3つの型は部下への任せ方と同じで、指示を出した後の3つの前提は同じにならないと示す図

内容部下と同じか
型①仕事全体ではなく、1工程を指定する同じでよい
型②合格条件を、指示と一緒に書く同じでよい
型③外部へ出る直前に、確認点を1つ置く同じでよい
前提①AIは前回の説明を覚えていない同じにならない
前提②AIは結果の責任を引き受けない同じにならない
前提③AIは前提が間違っていても止まらない同じにならない

上の3つは、人が指示を書くまでにやることになる。範囲を決め、条件を決め、確認点を決める。ここは相手が誰であっても変わらない。人に頼むときに培った任せ方は、そのまま使える。

下の3つは、指示を出した後にAIの側で起きることになる。積み上がらない、引き受けない、止まらない。ここに部下への期待を持ち込むと外れる。

線は、指示を書き終えた時点にある。

この線の引き方には、実務上の含みが1つある。指示を書くまでに手を抜くと、線の向こう側で回収できない。 部下なら、指示が雑でも聞き返しと学習でずれが縮まっていく。AIにはその2つが無いので、指示を書く段階で決めきれなかったものは、そのまま出力のばらつきになる。

任せ方の設計に払う手間は、相手が人のときより増える。 減るのは作業のほうであって、決めることのほうではない。

8-2. 指示を出す前に決める4つ

3つの型と3つの前提を、実際の手順に落とすと4つになる。

1. 任せる工程を1つに絞る

仕事全体ではなく、その中の1工程を指定する(第2章)。入力がその場で揃っているかで、切れているかを見分ける。揃っていないなら、揃える工程を先にやる。

2. 不合格の条件を書く

何が出てきたら使えないかを、指示と一緒に書く(第3章)。書けないなら、まだ渡す段階ではない。書いた条件はその場限りにせず、ファイルに溜めて毎回読ませる(第5章)。

3. 前提を言わせてから作らせる

作り始める前に、何を前提として受け取ったかを出させる(第7章)。埋められた箇所がここで見える。

4. 外部へ出る直前に、確認点を1つ置く

やり直せるかで確認の重さを決め、外部へ出る線の手前に人が見る場所を作る(第4章)。この確認は、回数を重ねても省略しない(第6章)。

4つとも、指示を書く前か、出力を受け取った後にやることになる。 指示の書き方そのものは、この4つが決まった後の話になる。


まとめ

「AIは部下のようなもの」という比喩は、使える部分と使えない部分がはっきり分かれている。

使えるのは、指示を書くまでの3つになる。任せる範囲を1工程に絞る、完了の条件を先に決める、外部へ出る前に確認点を置く。この3つは、人に仕事を任せるときに誰もが無意識にやっていることで、相手がAIでもそのまま働く。この比喩が広く使われているのは、道具として見ているかぎり出てこないこの3つを、まとめて引き出せるためである。

使えないのは、指示を出した後の3つになる。AIは前回の説明を覚えず、結果の責任を引き受けず、前提が間違っていても止まらない。部下なら回数を重ねるほど説明が減り、確認が減り、聞き返しでこちらの間違いが見つかる。AIでは、この3つがどれも起きない。

3つの前提に共通しているのは、どれも「任せた後に相手が埋めてくれること」だという点になる。人に任せるとき、頼む側の指示は完璧でなくてよかった。足りない部分は相手の記憶と判断と聞き返しが埋めていた。AIにはその埋め合わせが無いので、埋めるものを自分で先に用意することになる。

だから対処は、どれも指示を出す前か、出力を受け取った後に来る。前提はファイルに書き出し、依頼のたびに読ませる。確認は省略せず、見る場所を決めて速くする。止まる場所は、前提を言わせる工程と外部へ出る手前の2箇所に作る。

部下と同じように任せてよいのは、指示を書くまでになる。

任せた後は、AIが埋めない分を人が先に埋める。