ここまでで、何が変わり、何が変わらず、これから何が起きそうかを見てきた。

では、今から何を身につけておけばよいのか。

この最終回では、身につけておいたほうがいいことを3つ扱う。どれも、今後の見通しが当たっても外れても無駄にならないものになる。

3つとも、AIがこの先どうなるかに左右されない。だから、今日から始められる。

目次

章タイトル
1準備が予測に依存しない理由
2身につける癖① 合格条件を先に決める癖
3身につける癖② 決めた理由を残す癖
4身につける癖③ 仕事を工程に分ける癖
53つの癖は順番につながっている
6どの癖から始めるか
7連載のまとめ

1. 準備が予測に依存しない理由

1-1. 範囲は広がり、人の工程は残った

3回分を、簡単に振り返る。

  • ① 出力の品質・扱える情報量・扱える成果物・使える場所・自分で実行するか。この5点で範囲が広がった
  • ② 丸投げでは完成しない・出力の確認が要る・何を作るかは人が決める。この3つは変わらず、任せる範囲を決める作業が新しく増えた
  • ③ 実行できる範囲・つながる先・確認の精度。この3点は今後も進みそうだが、いずれも仮説になる

詳しくは各回に書いてある。ここで必要なのは、3回に共通して見えたことだけになる。

1-2. 3つとも、AIの性能と関係なく身につけられる

②の第7章「できないことを知ると、何が決まるか」で、人が持ち続ける作業を4つ確定させた。③の第5章「3つに共通する前提」では、その4つが仮説の当たり外れに関係なく残ることを見た。

この4つを、身につけるものとして整理すると3つになる。

②で確定した作業身につける癖
目的と合格条件を先に決める① 合格条件を先に決める癖
出てきたものを外の事実と照らして採否を決める①(基準が無いと判定できない)
どこまで任せ、どこから確認するかを決める② 決めた理由を残す癖
渡す前に状況と材料と制約を用意する③ 仕事を工程に分ける癖

なぜ「癖」として書くのか。 1回できたかどうかは問題ではないためである。

合格条件を1度だけ書いても、次の仕事では書かなければ元に戻る。工程を1度だけ分けても、次の仕事は分けないまま渡すことになる。毎回やっている状態になって初めて、身についたと言える。

そして癖になると、意識して思い出す必要がなくなる。手が勝手に動く状態が、この3つの目標になる。


2. 身につける癖① 合格条件を先に決める癖

2-1. 合格条件が無いと、判定で止まる

①の第2章「変化① 出力の品質が上がった」で、詰まる場所が後ろへ移ったと書いた。以前は書き直しで詰まり、今は判定で詰まる。

判定で詰まるのは、何をもって合格とするかが決まっていないためになる。

出てきたものを前にして「悪くはないが、これでいいのか分からない」となる。この状態から抜けるには、もう一度読むか、別の案を出させるかしかない。どちらも時間を使う割に、決まらない。

合格条件を先に決めておくと、判定が照合作業になる。決めた条件を満たしているかを見るだけで済む。

2-2. 基準は、書き出して初めて基準になる

「頭の中にはある」で済ませないことが要点になる。

頭の中にあるうちは、出てきたものを見てから基準のほうが動く。「まあこれでもいいか」と条件が下がることもあれば、逆に後から思いついた条件で不合格にすることもある。

書き出すと動かなくなる。 動かない基準があるから、判定が速くなる。

書く内容は多くない。1つの仕事につき2〜3行で足りる。

(例)ブログ記事の下書きを頼むとき

・読者は、AIを触ったことがない人
・専門用語を使うなら、その場で一言で説明する
・「〜すべき」で締めない

これを渡す前に書いておく。渡すときにそのまま貼れば、指示にもなる。

2-3. 毎回やらないと、身につかない

この癖が続かない理由は、急いでいるときに飛ばすことにある。

急いでいるときほど「今回は簡単だから」と省略する。そして急いでいるときほど、判定で止まって結局遅くなる。

続けるための現実的な方法は、条件を毎回ゼロから書かないことになる。同じ種類の仕事なら、前回書いた条件をコピーして、その回だけ違う部分を直す。

2回目からは1分で終わる。1分で終わるなら、急いでいても飛ばさない。


3. 身につける癖② 決めた理由を残す癖

3-1. 判断だけ残しても、次に使えない

②の第6章「性能が上がると、むしろ増えること」で、任せる範囲を決める作業が新しく増えたと書いた。

このとき残りやすいのは、決めた結果のほうだけになる。「ファイルの削除は確認する」「下書きの作成は任せる」といった線引きである。

結果だけ残っていると、あとで見直せなくなる。

3か月後に状況が変わったとき、その線を引き直してよいのか判断できない。なぜそこに引いたのかが分からないため、動かすのが怖くなる。結果として、古い線をそのまま使い続けることになる。

3-2. 理由が残ると、線を引き直せる

理由が書いてあると、前提が変わったかどうかを確かめられる。

(例)

決めたこと:外部サービスへの送信は、必ず確認を挟む
理由    :送信は取り消せない。誤送信の相手が社外だと影響が大きい

こう書いてあれば、あとで「送信を取り消せる仕組みが入った」ときに、線を動かしてよいと判断できる。理由が消えていれば、動かしてよいかは分からないままになる。

これは③で書いた読み方と同じ構造になる。③の第1章「予測を読むときに、何を確かめるか」で、根拠と外れる条件を書いておけば読者が自分で確かめられると書いた。自分の判断にも同じことが言える。

3-3. 書く場所を決めておくと続く

この癖が続かない理由は、書く場所が決まっていないことにある。

その都度どこに書くか考えていると、書かずに終わる。メモアプリ、ノート、プロジェクトのフォルダー。どれでもよいが、1つに決めておくことが続ける条件になる。

書く量も、決めたこと1行・理由1行で足りる。長く書こうとすると続かない。

あとで読む人のために書くと考えると、粒度が決まりやすい。半年後の自分は、そのときの事情を覚えていない他人に近い。他人が読んで分かる程度に書けばよい。


4. 身につける癖③ 仕事を工程に分ける癖

4-1. 分けてからでないと、渡す場所が決まらない

②の第2章「変わらないこと① 丸投げでは完成しない」で、渡す前の分解が今も要ると書いた。

分解が要る理由は、渡せる場所と渡せない場所が混ざっていることにある。

「ブログ記事を書く」という一塊のままでは、AIに渡せるかどうかを判断できない。分けると見えてくる。

題材を決める        → 自分で決める(目的に属する)
材料を集める        → 一部は渡せる
構成を考える        → 相談しながら決める
本文を書く          → 渡せる
事実を確認する      → 自分でやる(外の事実との照合)
公開する            → 自分で決める

分けた後で、初めてどこを渡すか決められる。

4-2. 工程の切れ目は、渡すものが変わる場所

どこで分けるか迷ったときの目安がある。渡すものが変わる場所で切る。

材料を集める工程と本文を書く工程では、渡すものが違う。前者に渡すのは探す条件で、後者に渡すのは集まった材料になる。だからここは別の工程になる。

逆に、同じものを渡して続けてできることは、1つの工程にまとめてよい。細かく分けすぎると、渡す回数だけ増えて手間が増える。

目安は、1つの工程で1回渡して1回受け取る形になる。

4-3. 一度分けた形は、次の仕事でも使える

この癖の効きが一番大きいのは、同じ種類の仕事を繰り返すときになる。

1度分けた形は、次の仕事でもほぼそのまま使える。ブログ記事を書く工程を1度整理すれば、次の記事も同じ工程で進む。

つまり分ける作業は、毎回発生しない。最初の1回だけ手間がかかり、2回目以降はその形に沿って進めるだけになる。

そして工程に分かれていると、うまくいかないときにどこで詰まったかが分かる。一塊のままだと「なんとなく時間がかかった」で終わるが、分かれていれば「事実確認に時間を使っている」と特定できる。


5. 3つの癖は順番につながっている

5-1. 3つは順番につながっている

3つはばらばらの習慣ではない。順番に効く関係にある。

工程に分ける・合格条件を決める・理由を残すの3つが順に効き、次の仕事へ戻る循環図

分けないと、どこに合格条件を置けばよいか決まらない。合格条件が無いと、判定できないので線を引く判断も生まれない。理由を残さないと、次に同じ仕事をするとき最初から考え直すことになる。

5-2. 一周すると、次はもっと速くなる

この3つを一周すると、次の同じ仕事が速くなる。

工程の形が残っている。合格条件が残っている。前回どこで線を引いたか、その理由も残っている。次は、この3つを引き継いで少し直すだけで始められる。

回すほど手間が減る形になっている。逆に言えば、1回では効果が実感しにくい。1回目は分ける手間も条件を書く手間も、全部が新しい負担として乗る。

2回目から差が出る。3回目にははっきり分かる。


6. どの癖から始めるか

6-1. 3つ全部を同時に始めない

3つを一度に始めると、たいてい続かない。

どれも1回あたりの負担は小さいが、慣れないうちは全部が意識的な作業になる。仕事そのものより準備のほうが重く感じられ、数回で戻る。

1つずつでよい。 3つは順番につながっているが、どれか1つだけでも効く。

6-2. 一番よく繰り返す仕事から始める

始める場所を選ぶ基準は1つになる。一番よく繰り返している仕事から始める。

理由は第4章「身につける癖③ 仕事を工程に分ける癖」の 4-3 で書いたとおり、この3つは繰り返すほど効くためである。月に1回の仕事で始めても、2回目が来る頃には忘れている。週に何度もやる仕事なら、数日で2回目が来る。

具体的な始め方としては、次の順を勧める。

順やること所要
1一番よくやる仕事を、工程に分けて書き出す15分程度。1回だけ
2そのうち1つの工程に、合格条件を2〜3行書く3分程度。毎回使い回す
3任せる範囲を決めたら、理由を1行足す判断が発生したときだけ

1と2で止まってもよい。 3は判断が発生したときだけの作業なので、しばらく出番が無いこともある。


7. 連載のまとめ

7-1. AIの範囲と、人の工程は別々に動く

この連載は、「これから生成AIはどうなるのか」に自分で答えを組み立てられる状態を目指して4回に分けた。

見えたのは、次のことになる。

範囲は大きく広がった。 出力の品質、扱える情報量、作れる成果物、使える場所、自分で実行するかどうか。この5点で、2022年からできることが増えた(①)。

それでも、人が持つ工程は減らなかった。 渡す前の分解、出力の確認、目的の決定。この3つは残り、さらに「どこまで任せるか」を決める作業が新しく増えた(②)。

これからも、進むのは範囲のほうになる。 実行できる範囲、つながる先、確認の精度。3つとも進みそうだが、いずれもAIが担当する側の話であり、人が持つ工程を動かすものではない(③)。

つまり4回を通して見えたのは、変化の方向が一貫していることになる。

広がり続けるAIができる範囲と、変わっていない人が決めることの中身を並べた対比図

この2つは、別々に動いている。 片方が広がっても、もう片方は縮まない。だから「AIが賢くなったから、人がやることは減る」という読み方は、この4回で見た限りでは成り立たない。

7-2. 予測ではなく、癖が残る理由

この連載が最後に置いたのが、3つの癖だった。

合格条件を先に決める癖・決めた理由を残す癖・仕事を工程に分ける癖。 どれも、AIの性能とは無関係に効く。

なぜ効くかというと、3つとも②で確定した「人が持つ工程」に対応しているためになる。人が持つ工程が変わらない以上、そこへの備えも変わらない。

性質内容時間が経つと
事実範囲が広がった(①)・3つは変わらなかった(②)確定している
仮説実行範囲・接続先・確認精度は進みそう(③)前提が崩れれば変わる
行動3つの癖(④)変わらない

変わるのは真ん中だけになる。③が外れても、①②から導いた④は残る。全体像で「予測そのものを渡さない」と書いたのは、この構造があるためだった。

7-3. 状況が変わったときに、どこを見直すか

生成AIは動いている最中の分野で、半年後には状況が変わっている可能性がある。

そのとき見直すべきなのは、③であって④ではない。

何が変わったか見直す先
予想より早く進んだ / 進まなかった「これから2〜3年で起きること」の仮説。根拠にした変化がまだ続いているかを見る
新しくできることが増えた①に足す。範囲の話として扱う
人が持つ作業が減った②を見直す。ただし、そう見えるだけの可能性が高い

3つ目だけ注意が要る。「AIが目的まで決めてくれるようになった」と感じたときは、目的を渡したのが自分ではないかを確かめたほうがよい。②の第4章「変わらないこと③ 何を作るかは人が決める」で見たとおり、基準を渡せばそれに沿って動くのは以前からできていた。

この4回で扱ったのは、生成AIの話であって、生成AIだけの話ではない。 何かに仕事を任せるとき、渡す前に分け、合格の条件を決め、判断の理由を残す。この形は、任せる相手が変わっても効く。

次に向かう先

3つの癖を実際の作業へ組み込む段階に入ったら、次の分類が役に立つ。

分類何があるか
基礎知識AIを使うための前提知識。学習の順序に沿って並べてある
活用事例副業の工程へ実際にAIを組み込んだ記録。工程の分け方の実例として読める

とくに活用事例は、この回で扱った工程に分ける癖が実際にどう適用されているかを見る材料になる。

← ③ これから2〜3年で起きること