ここまでは、実際に起きたことを見てきた。ここからは仮説になる。
では、これから2〜3年で何が起きそうなのか。
この章では、今の延長線から読める変化を3つ示す。ただし断定はせず、それぞれに根拠と「外れるとしたら、どの条件が崩れたときか」を必ず添える。
「2年後にはこうなる」と言い切るほうが読みやすい。それでも根拠と外れる条件を書くのは、外れたときに何も残らない予測にしないためである。
目次
| 章 | タイトル |
|---|---|
| 1 | 予測を読むときに、何を確かめるか |
| 2 | 仮説① 実行できる範囲が広がる |
| 3 | 仮説② つながる先が増える |
| 4 | 仮説③ 確認の負荷が下がる |
| 5 | 3つに共通する前提 |
| 6 | この見通しが外れるとしたら |
| 7 | 外れても、次の回の準備は無駄にならない |
1. 予測を読むときに、何を確かめるか
1-1. 断定形の予測は、外れたときに何も残らない
生成AIの今後については、断定形の予測をよく見かける。
「2年後には人間の仕事の半分が置き換わる」「来年にはプログラマーが不要になる」。
こうした予測には共通点がある。外れたときに、何も残らないことである。
当たれば「言ったとおりになった」で終わり、外れれば忘れられる。読んだ側は、その予測を土台に何かを準備していた場合、準備ごと無駄になる。
より困るのは、外れたことに気づけないことになる。断定形には根拠が書かれていないため、「今もこの前提は成り立っているか」を確かめる手がかりが無い。古い予測を持ったまま判断を続けることになる。
1-2. 根拠と外れる条件をセットで見る
この回では、3つの仮説それぞれに次の3点を添える(全体像 2章「事実と仮説を分けて読む」)。
| 添えるもの | 何のためか |
|---|---|
| 根拠 | 今すでに起きている変化のどれを延長しているか |
| 外れる条件 | どの前提が崩れたら成り立たなくなるか |
| 外れたときの影響 | 次の回で扱う準備は無駄になるか |
根拠を書くと、読者が自分で確かめられる。 「この変化を延長している」と書いてあれば、その変化が実際に続いているかを見れば、仮説が今も有効かが分かる。記事が古くなっても、確かめ方のほうは残る。
外れる条件を書くと、監視すべき点が決まる。 どこが崩れたら見直すのかが分かっていれば、そこだけ見ていればよい。
この回で書くのは、当てにいく予測ではない。前の回の第7章「できないことを知ると、何が決まるか」で渡した見分け方を使って、読者が自分で判断できる材料を並べる。
2. 仮説① 実行できる範囲が広がる
2-1. 根拠 — 単発の作業から、工程をまたぐ依頼へ
延長しているのは、「何が変わったのか — 2022年から今までに実際に起きた変化」で見た変化になる。
第6章「変化⑤ AIが自分で実行するようになった」で書いたとおり、AIは提案するだけでなく、自分でファイルを読み書きし、コマンドを実行し、結果を見て次の手を決めるようになった。
さらに、複数の手順にまたがる依頼が通るようになっている。「資料を読んで、記事を書いて、一覧表も更新して」のような、工程をまたぐ依頼が成立する。
この方向は、ここ数年で段階的に進んできた。単発の応答 → 連続した作業 → 工程をまたぐ作業、という順になる。
2-2. どこまで広がると考えられるか
この延長線で見ると、1回の依頼で任せられる工程の数が増える方向になる。
今は工程をまたぐ依頼が通るといっても、途中で人が見る場面が多い。途中の判断が正しいか、想定と違う方向へ進んでいないかを確かめながら進めることになる。
2〜3年で変わりそうなのは、この途中の確認の頻度になる。長い作業を最後まで任せて、終わってから結果を見る形が増えると考えられる。
ただし、任せられる長さには上限が残ると見ている。作業が長くなるほど、途中でずれたときの手戻りが大きくなるためである。ずれに気づくのが遅いほど、やり直す量が増える。
2-3. 外れる条件 — 失敗したときの巻き戻しが追いつかない場合
この仮説が成り立たなくなるのは、失敗の巻き戻しが割に合わなくなった場合になる。
長い作業を任せて最後に確認する形は、失敗したときに戻せることが前提になっている。戻せないなら、途中で確認するしかない。
戻せなくなる状況は具体的にある。外部へ送信した、課金が発生した、他の人が既にその結果を使い始めた。これらは実行後に気づいても元に戻らない。
外部とつながるほど、この問題は大きくなる。 次の仮説②と逆方向に働く点になる。接続先が増えるほど取り返しのつかない操作が増え、長く任せることが難しくなる。
つまり仮説①と仮説②は、同時には進みにくい関係にある。両方が同時に大きく進むという見通しには、慎重になったほうがよい。
3. 仮説② つながる先が増える
3-1. 根拠 — ローカルのファイル操作から外部サービスへ
延長しているのは、「何が変わったのか — 2022年から今までに実際に起きた変化」の「変化④ 使える場所が増えた」になる。
チャット画面の外へ出て、作業している環境そのものへ入ってきた。ファイルを直接読めるようになった。
この方向をさらに延ばすと、自分の手元の外へ広がることになる。カレンダー、メール、会計ソフト、社内のデータベース。すでに一部は実現しており、つなぐための仕組みも整いつつある。
3-2. どこまでつながると考えられるか
2〜3年で進みそうなのは、つなぐ作業が軽くなることになる。
今は、外部サービスとつなぐのに設定が要る。技術的な知識も要る。この部分が簡単になり、非エンジニアでも数クリックでつなげる状態へ向かうと考えられる。
つながると何が変わるか。前の回で「渡す作業」として残っていた部分の一部が自動になる。
第2章「変わらないこと① 丸投げでは完成しない」で見たとおり、材料を渡す作業は残っている。だがその材料がカレンダーや会計ソフトの中にあるなら、AIが自分で見に行けるようになる。
ただし、渡す作業がすべて消えるわけではない。 どこかに記録されている材料は取りに行けるが、記録されていない材料は取りに行けない。「去年この企画が却下された理由」が誰の頭の中にもあるだけなら、どこにもつながっていない。
3-3. 外れる条件 — 権限とデータの扱いが決まらない場合
この仮説が止まるとしたら、技術ではなく権限の側になる可能性が高い。
外部サービスにつなぐということは、そのデータをAIが読めるということになる。読めるということは、外へ出る経路ができるということでもある。
ここで問題になるのは技術の可否ではなく、誰がその責任を負うかになる。会社のデータを外部のAIサービスへ渡してよいか。渡した結果として漏れた場合、誰が責任を持つか。
この判断が定まらないと、つなげるのに使わない状態が続く。技術的には可能でも、組織として許可が出ない。個人で使う場合も、事故が1件でも報じられれば慎重になる。
だから、この仮説は技術の進歩とは別の速度で進む。技術側が先に整い、使われ方があとから追いつく形になりやすい。
4. 仮説③ 確認の負荷が下がる
4-1. 根拠 — 誤りを自分で検出する仕組みが増えている
延長しているのは、誤りを減らす方向の取り組みになる。
書いた内容の裏を検索して取る、複数回生成して食い違いを探す、実行した結果を見て自分で誤りに気づく。こうした仕組みが増えてきている。
前の回の第3章「変わらないこと② 出力の確認が要る」で書いたとおり、確認が要ること自体は変わっていない。だが誤りの発生率が下がれば、確認にかかる負荷は下がる。
4-2. どこまで下がると考えられるか
2〜3年で進みそうなのは、確認の粒度が粗くなることになる。
今は、事実関係を1つずつ確かめる必要がある場面が多い。誤りの頻度が下がれば、全体を通して読んで違和感が無いかを見る程度で済む場面が増える。
特に下がりやすいのは、答えが決まっている作業になる。計算、形式の変換、決まった手順の実行。これらは正しさが機械的に判定できるため、AI自身が検証しやすい。
下がりにくいのは、正しさが外の事実に依存する作業になる。前の回の第3章「変わらないこと② 出力の確認が要る」で書いたとおり、正しいかどうかは出力の中には無く、外側と照らし合わせるしかない。その照合先が公開された情報なら自動で取りに行けるが、自分の状況や記録されていない事実が相手なら取りに行けない。
そして、確認そのものが消えることはないと見ている。理由は誤りの頻度ではなく、採否を決める工程が残ることにある。「これでよい」と決めるのは、外れたときの結果を引き受けることであり、精度がいくら上がっても引き受ける人は要る。
4-3. 外れる条件 — 検出できない種類の誤りが残る場合
この仮説が成り立たなくなるのは、検出しにくい誤りの比率が上がった場合になる。
明らかな誤りが減ると、残るのは気づきにくい誤りになる。もっともらしく、文脈にも合っていて、しかし事実と違う。
こうなると、確認の総量は減っても、1件あたりの難易度は上がる。頻度が下がったぶん警戒も緩むため、見逃しやすくもなる。
「精度が上がったから確認を減らしてよい」と判断した後で、見逃しが起きるという形が想定される。負荷が下がることと、確認をやめてよいことは別になる。
5. 3つに共通する前提
5-1. 3つとも「渡されたものをどう扱うか」の話
3つの仮説を、前の回で渡した枠組みに当てはめる。
第7章「できないことを知ると、何が決まるか」で、AIがこうなるという話は真ん中(渡されたものをどう扱うか)の話か、上下(自分の側)の話かで見分けられると書いた。
| 仮説 | どこの話か |
|---|---|
| ① 実行できる範囲が広がる | 真ん中。渡された依頼をどこまで進められるか |
| ② つながる先が増える | 真ん中。渡された材料をどこから取れるか |
| ③ 確認の負荷が下がる | 真ん中。渡された条件でどれだけ正確に出せるか |
3つとも真ん中の話になる。 これは意図的に選んだわけではなく、今の延長線から読めるのが真ん中だけだからである。
5-2. 目的・材料・合格条件は動かない
上下の部分については、この回で仮説を立てていない。
前の回の第5章「3つに共通しているもの」で見たとおり、上下に属するもの(自分の状況、目的、合格条件、外の事実との照合)は、AIの内部に無いものを必要としている。性能が上がっても埋まらない。
2〜3年でここが変わるという見通しを立てるには、性能とは別の理屈が要る。この記事はそれを持っていないため、書かない。
つまり、この回で示した3つが全部当たったとしても、人が持つ工程は前の回で確定したものから変わらない。
- 渡す前に、状況と材料と制約を用意する
- 出てきたものを、外の事実と照らして採否を決める
- 目的と合格条件を先に決める
- どこまで任せ、どこから確認するかを決める
この4つは残る。むしろ①②が進むほど、4つ目の比重は上がる。任せられる範囲が広がり、つながる先が増えるほど、線を引く作業が重くなるためである。
6. この見通しが外れるとしたら
6-1. 技術以外の理由で止まることがある
各章で個別の外れる条件を書いたが、3つに共通して効く要因が別にある。
技術が進んでも、使われ方がそれに追いつかない場合になる。
| 要因 | 何が起きるか |
|---|---|
| 規制 | 扱えるデータや用途に制限がかかる |
| コスト | 性能が上がっても、価格が見合わなければ使われない |
| 事故 | 大きな失敗が報じられると、慎重な運用へ揺り戻す |
とくに3つ目は、仮説①②と逆方向に強く働く。任せる範囲を広げた結果として事故が起きれば、次に来るのは「人が確認する工程を戻す」という判断になる。
技術の進歩は連続的だが、使われ方は不連続に変わりうる。この差が、予測を外す一番の要因になると見ている。
6-2. 3つに共通して崩れうる前提
もう1つ、根本的な前提がある。
この回の3つは、今の方向が続くことを前提にしている。性能が上がり続け、使える場所が増え続けるという前提である。
過去数年はそうだった。だが、この延長が続く保証は無い。伸びが鈍る、方向が変わる、別の技術が主役になる。どれも起こりうる。
過去の延長で未来を描くというやり方自体に、この限界がある。 全体像2章が「①②を先に置いている理由」として書いたとおり、未来の話は過去の変化の延長でしか書けない。だからこの方法を取っているが、延長が外れる可能性は方法そのものに含まれている。
だから、この回の3つは「そうなるはずだ」ではなく、「今の情報で読むとこう見える」として置いている。
7. 外れても、次の回の準備は無駄にならない
7-1. 準備が③に依存していない理由
ここまで読んで、こう思われるかもしれない。外れるかもしれない話を読んで、何になるのか。
答えは、次の回で扱う準備が、この回の当たり外れに左右されないことにある。
第5章「3つに共通する前提」で見たとおり、3つの仮説はすべて真ん中の話になる。真ん中がどう変わっても、上下に属する4つの作業は残る。
| この回の仮説がどうなるか | 人が持つ4つの作業 |
|---|---|
| 3つとも当たる | 残る。むしろ線を引く作業は重くなる |
| 一部だけ当たる | 残る |
| どれも進まない | 残る。今と同じ状態が続くだけ |
どの場合でも残る。 だから、この4つを準備しておくことは、予測の当たり外れと無関係に効く。
これが、全体像1章が「予測そのものを渡さない」と書いた理由になる。外れる可能性のあるものを土台にすると、外れたときに準備ごと無駄になる。 土台に置くのは、どの見通しでも動かない部分にする。
7-2. 次の回で扱う3つの準備
次の回では、その4つを具体的な形へ落とす。
判断基準を決めること、決めた理由を記録すること、仕事を工程に分けること。抽象的な原則ではなく、今日から手をつけられる形で示す。
この回を読み飛ばしても、次の回は成立する。 逆に言えば、この回は次の回の必須の前提ではない。ここで示した仮説は、次の回の準備がなぜ予測に依存しなくてよいのかを説明するために置いている。
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ここまでで、これから2〜3年の見通しを3つ、根拠と外れる条件を添えて示した。3つとも真ん中の話であり、人が持つ工程を動かすものではない。
次の「何を身につけるべきか — 変化しても価値が残るもの」では、どの見通しが当たっても効く準備を扱う。ここまでの3回を横断し、今から何をしておくかへ落とす。抽象的な心構えではなく、判断基準・記録・工程の分解という具体的な形で示す。