生成AIでできることは、2022年から今までの数年間で確かに広がった。
では、期待されたのに進まなかったことは何か。
この章では、今も自分でやるしかない作業を3つ取り上げ、なぜ性能が上がっても解決しないのかまで見ていく。
できるようになったことだけを見て仕事に組み込むと、AIが担当できない部分を自分が引き受けることになる。先に知っておけば、その部分は最初から自分の作業として数えられる。
目次
| 章 | タイトル |
|---|---|
| 1 | 進歩の話だけでは、組み込めない |
| 2 | 変わらないこと① 丸投げでは完成しない |
| 3 | 変わらないこと② 出力の確認が要る |
| 4 | 変わらないこと③ 何を作るかは人が決める |
| 5 | 3つに共通しているもの |
| 6 | 性能が上がると、むしろ増えること |
| 7 | できないことを知ると、何が決まるか |
1. 進歩の話だけでは、組み込めない
1-1. できないことを知らないまま組み込むと、人が埋めることになる
生成AIの記事は、できるようになったことを並べて終わることが多い。
読んでいる側も、そのほうが気持ちがよい。前の回もその形になっている。
ただ、実際に自分の仕事へ入れようとすると、できないことのほうが先に効いてくる。
工程の中にAIを置いたとして、その工程が期待どおりに終わらなければ、足りない部分を誰かが埋めることになる。埋めるのは自分になる。
埋める作業が事前に見えていないと、想定より時間がかかる。 しかも「AIを使ったのに速くならなかった」という形で表に出るため、原因が特定しにくい。実際には、AIが担当できない部分を自分が引き受けただけである。
だから、できないことを先に知っておく価値がある。その部分は最初から自分の作業として数えておけばよいからである。
1-2. 期待されたのに進まなかったことを3つに分ける
この章では、3つに分けて見る。
| 番号 | 期待されたこと | 今の状態 |
|---|---|---|
| ① | 目的を伝えれば完成品が出てくる | 渡す前の分解が今も要る |
| ② | 確認しなくてよくなる | 出力の確認が今も要る |
| ③ | 何を作るかも提案してくれる | 案は出るが、決めるのは人 |
3つとも、2022年の時点で「そのうちできるようになる」と言われていたものになる。そして今も、その状態にはなっていない。
各章では、期待されたこと・実際どうか・なぜ進まなかったのかの順に見る。3つ目が重要になる。単に「まだできない」のか、それとも性能が上がっても解決しない性質のものなのかで、扱い方が変わるためである。
2. 変わらないこと① 丸投げでは完成しない
2-1. 期待されたのは「目的を言えば完成する」
初期に期待されたのは、目的を伝えるだけで完成品が出てくる状態だった。
「売上を上げる企画書を作って」と言えば、使える企画書が出てくる。細かい指示を書かなくても、意図を汲んで仕上げてくれる。
この期待には根拠もあった。性能が上がれば、足りない情報は推測で埋められるはずだ、という見方である。
2-2. 実際は、渡す前の分解が今も要る
今、同じ頼み方をするとどうなるか。
それらしい企画書は出てくる。 前の回の第2章「変化① 出力の品質が上がった」で見たとおり、文章としての完成度は高い。
ただし、そのまま使えるかというと使えない。誰に向けたものか、予算はいくらか、過去に何を試して何が駄目だったか。これらが渡っていないため、一般的に正しいが自分の状況には合っていないものが出てくる。
使えるものにするには、結局こちらで分解して渡すことになる。
| 渡すもの | 具体例 |
|---|---|
| 目的 | 何のために作るのか。誰が読むのか |
| 材料 | 過去の経緯、数字、使える資源 |
| 制約 | やらないと決めていること、避けたい表現 |
| 合格の条件 | どうなったら完成とするか |
この4つを渡す作業は、2022年から今まで、ほとんど軽くなっていない。
2-3. なぜ進まなかったのか — 分解は状況ごとに違う
理由は、分解の中身が自分の状況に属していることにある。
AIが持っているのは、世の中に書かれてきたことの集積になる。一般的な企画書の書き方は知っている。だがあなたの職場で去年何が却下されたかは、どこにも書かれていない。
推測で埋めることはできる。実際、埋めてくる。ただしその推測が当たっているかは、こちらが確かめるしかない。確かめるくらいなら、先に渡したほうが早い。
性能が上がっても、ここは変わらない。 知らない情報を推測する精度は上がるかもしれないが、知らないという事実は変わらないためである。
前の回の第3章「変化② 一度に扱える情報量が増えた」で見たように、渡せる量は大きく増えた。だがそれは渡す作業が楽になったのであって、渡す必要が無くなったわけではない。むしろ大量に渡せるようになったぶん、何を渡すかを選ぶ判断は残り続けている。
3. 変わらないこと② 出力の確認が要る
3-1. 期待されたのは「確認しなくてよくなる」
品質が上がれば、いずれ確認は要らなくなる。これも自然な期待だった。
人に仕事を頼むときも、信頼できる相手なら細かく確認しない。AIも同じで、精度が一定を超えれば任せきりにできるはずだ、という見方である。
3-2. 実際は、整った出力ほど確認が要る
今も確認は要る。しかも、確認しにくくなった面がある。
前の回の第2章「変化① 出力の品質が上がった」で書いたとおり、出力は文章として整っている。文法が正しく、構成が自然で、断定的に書かれている。
この整い方が、誤りを見つけにくくする。
| 荒い出力 | 整った出力 | |
|---|---|---|
| 誤りの見え方 | 文章の崩れとして表に出る | 見た目には出ない |
| 気づき方 | 読めば引っかかる | 内容を照合しないと分からない |
| 必要な作業 | 直す | 確かめる |
以前は、おかしい箇所が文章の崩れとして現れていた。今は、誤った内容が正しい文章の形で出てくる。
読んで違和感が無いことは、正しいことを意味しない。 これが確認を省けない理由になる。
3-3. なぜ進まなかったのか — 正しさは出力の中に無い
より根本的な理由がある。正しいかどうかは、出力を見ても分からないことである。
文章が正しいかを判定するには、書かれている内容と外側の事実を照らし合わせる必要がある。その数字は実際の数字か。その手順は本当にその順番か。その主張は自分の目的に合っているか。
照合先は、出力の外にある。出力をどれだけ精密に読んでも、そこには無い。
AI自身が確認する仕組みもある。検索して裏を取る、複数回生成して食い違いを探す。これらは有効だが、最終的に「これでよい」と決める工程は残る。決めるということは、外れたときの責任を引き受けることであり、そこは出力の精度とは別の話になる。
性能が上がると、確認の負荷は減る。だが確認そのものは消えない。 誤りが減れば見つかる確率は下がるが、下がった確率をゼロとして扱うかどうかは、その仕事で何が起きたら困るかによって決まる。
4. 変わらないこと③ 何を作るかは人が決める
4-1. 期待されたのは「何を作るかも提案してくれる」
作り方だけでなく、何を作るべきかまで示してくれる。これも期待されていた。
「今月何をやればいいか」と聞けば、状況を踏まえた優先順位が返ってくる。判断ごと任せられる状態である。
4-2. 実際は、案は出るが決めるのは人
案は出る。しかも、質のよい案が出る。
「副業で何から始めるべきか」と聞けば、選択肢が整理され、それぞれの利点と難点が並ぶ。抜けの少ない一覧が手に入る。
ただし、その中から選ぶのは自分になる。
選べない理由は、案の質ではない。選ぶ基準がこちらにしか無いことにある。
| 判断に要るもの | どこにあるか |
|---|---|
| 使える時間 | 自分の生活の中 |
| 続けられるかどうか | 自分の性格・過去の経験 |
| 何を諦めてよいか | 自分の優先順位 |
| 失敗したときに困る度合い | 自分の状況 |
これらを伝えれば、AIは踏まえた案を出せる。だがその場合も、伝えた基準に沿って整理しているだけであり、基準そのものを決めたのはこちらになる。
4-3. なぜ進まなかったのか — 合格条件は自分の目的から来る
ここが3つの中で最も動かない部分になる。
何を作るかは、目的から決まる。 そして目的は、その人が何を望むかという話になる。望みは事実ではないため、外から導き出せない。
たとえば「読まれる記事を書きたい」と「書いていて面白い記事を書きたい」では、同じ題材でも合格条件が変わる。どちらが正しいということはなく、どちらを取るかを決めた人がいるだけになる。
AIは、目的を渡されればそれに沿って動く。目的を決める工程は、渡す前にある。
これは性能の問題ではない。 どれだけ賢くなっても、その人が何を望むかは、その人が言わないと分からない。
5. 3つに共通しているもの
5-1. 3つとも、AIが持っていない情報が要る
ここまでの3つを並べると、共通点が見える。
| 変わらないこと | 足りないもの | それがある場所 |
|---|---|---|
| ① 丸投げでは完成しない | 状況・材料・制約 | 自分の側 |
| ② 出力の確認が要る | 照合先の事実 | 出力の外 |
| ③ 何を作るかは人が決める | 目的・優先順位 | 自分の側 |
3つとも、AIの内部には無いものを必要としている。
第2章「変わらないこと① 丸投げでは完成しない」で見た分解の材料は、こちらの状況にある。第3章「変わらないこと② 出力の確認が要る」で見た照合先は、出力の外にある。第4章「変わらないこと③ 何を作るかは人が決める」で見た基準は、こちらの目的にある。
5-2. 性能が上がっても埋まらない理由
だから、この3つは性能の向上では埋まらない。
性能が上がって改善するのは、渡されたものをどう扱うかの部分になる。渡された材料から良い文章を作る、渡された基準で案を並べる、渡された条件を守る。ここは実際に大きく良くなった。
一方で、渡すものを用意する工程は別にある。ここを短くするのは性能ではなく、こちらの準備になる。
順に見ると、こちらが状況・材料・目的・合格条件を用意して渡し、AIが作る・実行する。返ってきたものをこちらが外の事実と照らし、採用するかを決める。

上下がこちらの担当で、真ん中がAIの担当になる。前の回で見た5つの変化は、真ん中を大きく広げた。だが上下は、そのままの形で残っている。
6. 性能が上がると、むしろ増えること
6-1. 実行できるようになると、任せる範囲を決める作業が生まれる
ここまでは「変わらなかったもの」を見てきた。
だが正確に言うと、増えたものもある。
前の回の第6章「変化⑤ AIが自分で実行するようになった」で書いたとおり、AIが自分で作業を進めるようになった。これによって、どこまで自動で進めさせ、どこから先は確認させるかを決める必要が出てきた。
以前は、この判断が要らなかった。提案を受け取って自分で実行する形だったため、実行の前に必ず自分が入っていた。危ないものは、そこで止まった。
今は止まらない。だから事前に線を引いておくことになる。
| 決めること | 具体例 |
|---|---|
| 自動で進めてよい範囲 | 下書きの作成、既存ファイルの修正 |
| 必ず確認させる操作 | 削除、外部への送信、課金の発生 |
| 止まったときにどうするか | 誰が判断するか |
この作業は、2022年には存在しなかった。
6-2. できることが増えるほど、決めることも増える
前の回の第8章「変わったのは範囲であって、性質ではない」で「できることが増えると、決めることも増える」と書いた。その具体がここになる。
任せられる範囲が広がると、任せ方を設計する仕事が新しく生まれる。範囲が狭いうちは、その都度考えれば済んでいた。広がると、事前に決めておかないと追いつかない。
つまり、前の回とこの回は逆向きの話に見えて、同じことを別の側から見ている。
- ①=AIができる範囲が広がった
- ②=人が決める作業は減らず、一部は増えた
両方が同時に起きている。 どちらか片方だけを見ると、実態からずれる。
7. できないことを知ると、何が決まるか
7-1. 人が持つ場所が確定する
3つの変わらないことは、裏返すと人が持ち続ける工程になる。
| 変わらないこと | 人が持つ作業 |
|---|---|
| ① 丸投げでは完成しない | 渡す前に、状況と材料と制約を用意する |
| ② 出力の確認が要る | 出てきたものを、外の事実と照らして採否を決める |
| ③ 何を作るかは人が決める | 目的と合格条件を先に決める |
| (増えたもの) | どこまで任せ、どこから確認するかを決める |
この4つは、AIの性能が今後どう変わっても残ると考えてよい。理由は第5章「3つに共通しているもの」で見たとおり、いずれも自分の状況・目的・外の事実に属しており、AIの内部にあるものではないためである。
ここが確定すると、準備すべきものが決まる。どの見通しが当たるかに関係なく、この4つは要る。
7-2. ③を読む前に、ここを押さえておく
次の回では、これから2〜3年で起きることを扱う。
そこで書くのは仮説になる(全体像 2章「事実と仮説を分けて読む」)。断定はせず、根拠と外れる条件を添える形で示す。
仮説を読むときに効くのが、この回で見た3つになる。「AIがこうなる」という話を読んだとき、それが真ん中の部分(渡されたものをどう扱うか)の話なのか、上下の部分(自分の側)の話なのかを見分けられる。
真ん中の話であれば、性能の向上として実現しうる。上下の話であれば、性能とは別の理屈が要る。この見分けができると、予測に振り回されずに済む。
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ここまでで、性能が上がっても残る3つと、新しく増えた1つを確かめた。人が持つ場所は、これで確定している。
次の「これから2〜3年で起きること — 今の延長線から読める変化」では、これから2〜3年で起きることを扱う。前の回とこの回を土台に見通しを立てるが、ここからは仮説になる。断定せず、そう考える根拠と、外れるとしたらどの条件が崩れたときかを必ず添えて示す。